日本画における線は単にものの輪郭を表すだけのものではなく、それ自体に思想や情感が託され、時代や画派によって、また近代では、作家ごとにさまざまな表情を持つ線が開発され、用いられてきました。いわば線は日本画表現の基本をなすものであり、作品を鑑賞する際には最大の見所でもあります。
「一方、西洋美術の場合は、線を主体にした表現であるドローイングは、本来、油絵具等を使用して作品を仕上げるペインテイングに対して、素描、図柄等をさす言葉です。主知主義に基づく西洋絵画では、線で形態の輪郭をとらえる描写は、あくまで完成に至る過程として見ることが主流でした。
しかし、第2次大戦後の1950年代に登場した、アクション・ペインテイングやアンフォルメルなどの、いわゆる“熱い抽象”と呼ばれた新しい傾向の画家たちによって、ドローイングに新たな局面が開かれました。彼らはキャンバスに向かって身体を躍動させ、その結果、偶然生まれる新鮮な形によって、内面の世界をより鮮烈に表そうとしました。まさに、即興生や一回性、躍動感のあるストロークなど、ドローイングの特色を生かして新たな表現の地平を切り開いていったのです。さらに1960年代後半から始まった、芸術の観念的な側面を重視するコンセプチュアル・アートでは、画家の思索の過程がドローイングによって示されました。このように、ドローイングは次第に重要視されるようになり、現在ではペインテイングと並んで絵画表現の一部となっています。
形をとらえるための日本画の描線と、制作時の画家の身体の動きや思索の航跡を伝えるドローイングのストロークや筆致。一見、意外な取り合わせと思われる日本画と現代の抽象絵画の線の表現をあわせてご覧いただくことで、それぞれの相違点や独特の魅力を発見できるのではないでしょうか。